土佐のおきゃく
2007.11.27
「地元だけのものねぇ。」と難しそうな顔をしながら南社長が答えてくれたのは、「特に安田だけのもんではないけんど」の前置きつきで、それに当たるのは安田町唐浜の神祭(じんさい)のときの『おきゃく』ではないかということ。
土佐の『おきゃく』とは、高知県だけに見られる「宴会方法」。今は少なくなってしまったものの、ここ数年に亘って38番札所『司牡丹酒造』の竹村社長をはじめとする県下の有志が見直し運動をしている「宴会方法」なのである。お祭りの際、各家庭で行う出入り自由の「大型のホームパーティー」と言った方が分かり易いかもしれない。通常、「宴会」は町の宴会場に集まり出欠をとり会費を集めて行うものであるが、『おきゃく』は地域の全ての家庭で、皿鉢料理を盛って献杯を酌み交わす風習。誰が来てもいいし、無論、お金はとらない。強いて言えば、地域全体総ぐるみの「お裾分け」のようなものである。「近所全部に振舞いよったら、お金がなんぼあっても続かんやろう」と思ってはいけない。『おきゃく』をしたら、今度は「次はお隣、明日はどこの家」とこちらも『おきゃく』になりに行く、という「お互い様の精神」で結ばれた共同体のようなものなのだ。フルオープンなので余所者であってもお呼ばれしても構わないらしいが、そんときは手土産に酒の一本でも下げて行くべし。
「酒蔵が『おきゃく』したら、大酒呑まれて身上なくすんと違いますか?」と冗談で聞くと、「その分、年間でみんなに買うてもらいよるがな」と言う。細かいことは一切言わず、奢ってもらったらどこかでちゃんと返す・・・人の出入りばっかりの都会では出来なくなってしまった、地域ならではの大切な心持ちですね。